オバマ演説を語らなければ

Posted by 秋山孝二
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 アメリカのオバマ大統領就任演説から2週間以上が経ちました。新聞は一段落しましたが、まちの書店ではどこも「オバマ演説集」コーナーが複数あって、大変な反響ですね。語学テキストコーナーにも沢山積んでありました。

今度の演説で私が最も「凄み」を覚えたのは、大統領としての就任演説が、明確に選挙戦での演説から決別した事でした。この間候補者として支援者向けに発信された内容から、世界のリーダーとしてこの世紀の難局に向かう覚悟への転換をした人物の、「勇気」と「見識の高さ」と「言葉の重み」を感じました。以下、思うままに幾つかを。

1) メディア的には「8割の感動」とか、「失望の書き込み」とかの見出しもチラホラ散見しますが、私はそんな皮相な論評を越えるオバマ大統領の決意とメッセージを受け止めました。「試練」「再建への決意」「リーダーシップ」「多文化社会の強さ」等、これ以上ないという程吟味された短い言葉に凝縮した表現によって、濃い内容でした。正直に言いまして、テレビで見て、聴いている時にはそれほどまではそしゃくできませんでしたが、活字で後から読み直して見ると、凄いなと感じました。ブッシュ政権への厳しい評価も、「Change」を実質的に表していました。

2) 少なくとも勝利演説までの選挙戦の雰囲気を期待して集まった方々には、確かに予想外だったかも知れません。それをオバマ大統領は、敢えて今日からは違うのだと語るのではなく、その演説内容で全世界の人々を意識して表現した、とりわけ選挙で支援してくれた人々にも強いメッセージを伝えた、と思います。途中では「あれっ」と思わせて、終わってみれば「あっ、そうか」という感じでしょうか。それでも演壇に立つオバマ大統領と時間・空間をともに感動を共有したいと集まった方々は満足だったのです。

3) 20代の日本の若者が言っていました。昨年初めからオバマ氏のスピーチに興味を持って聴いていたが、最初の頃から人の心に染み入る英語が素晴らしかったし、それが進化していく様子も理解できた、と。それは何なのでしょうねとその方とも話していたのです。新大統領は日本的に良く言われる「笑顔が大切」というスタイルで演説はしませんよね。むしろ厳しい表情で間合いを取って語りかけるその雰囲気に、人々は引きつけられるのだと思います。ブッシュのあの品格の低い顔、言葉には、何人かのアメリカ人の友人も、「アメリカの恥」と言ってはばかりませんでした。

4) 日本人の翻訳者の方が、「久しぶりに国のリーダーの言葉に触れた気がした」と語る記事を読みました。その辺が語学コーナーにもオバマ大統領演説が登場する所以でしょうか。そう言えば、ここしばらく私は品格のある日本語に接する機会を持てずに居るような気がします。余談になりますが、これまで私が最も感動したお言葉、それは2000年の東京女子医科大学http://www.twmu.ac.jp/U/about-twmu/ab00spirit.html創立100周年記念式典での天皇陛下のご挨拶でした。当時医薬品卸会社の代表として、前方でそれをお聴きしていて、その深い内容とお言葉の美しさは今でも忘れられません。因みに宮内庁のスピーチライターは、中央官庁の中でも最高のレベルとか、後からある官僚の方から伺いました。

―――東京女子医科大学創立百周年記念式典
平成12年12月5日(火)(ホテルオークラ)

東京女子医科大学が創立百周年を迎えるに当たり,皆さんと共に,この記念式典に臨むことを,誠に喜ばしく思います。

東京女子医科大学は,当時低かった婦人の社会的地位の向上を願う女医吉岡彌生により明治33年東京女医学校として創立されました。医院の一室を教室にした生徒4人のささやかな学校の門出でありました。開校8年目にして生徒の一人,竹内茂代が医術開業の国家試験に合格し,初めて学校の卒業式が行われました。この医術開業試験の合格は学校中を喜びに浸らせるものでありましたが,卒業式に招かれた来賓の祝辞は女医の進出を祝福する発言とそれに反対する発言に分かれ,決して祝賀としてのみの行事とはなりませんでした。女性が生きる上において今日では考えられないような厳しい時代であったことが察せられます。東京女子医科大学の100年の歴史を振り返るとき,幾度も人々の無理解に傷つきつつ,本人の強い意志をもって様々な困難を乗り越え,その後の女医の道を切り開いていった吉岡彌生始め当時の女医の苦労がしのばれます。

東京女医学校は,吉岡校長始め,多くの人々の努力により,東京女子医学専門学校,東京女子医科大学と名称を変えつつ発展し,今日に至っています。その間,多くの医学,医療に携わる人々を世に送り,我が国の医学,医療に貢献した功績は大きく,ここに深く敬意を表します。

この100年の間に,吉岡彌生の女医学校創立の動機となった婦人の社会的地位も次第に変化を遂げてきました。昭和21年,戦後に行われた最初の衆議院総選挙で婦人参政権が初めて認められ,竹内茂代議員が誕生したことは,少年時代の私の記憶にもはっきり残っています。婦人参政権が認められたことは,戦後に行われた大きな改革の一つでありました。

今日,医学,医療は関連諸科学の発展とあいまって,非常な進歩を遂げています。この進歩により,人々の受ける恩恵は計り知れないものがありますが,一方進歩していく医学,医療に携わる人々の仕事に対する厳しい姿勢や人間性が,より深く問われるようになってきていることも事実であると思います。

東京女子医科大学が,そこに流れている至誠と愛の精神の上に立って,医学,医療を志す女性のために,また,医療を求める人々のために,今後とも大きな支えとなっていくことを願い,式典に寄せるお祝いの言葉といたします。――――――

5) 日本のメディアの扱いが、相変わらず浅薄でした。画面に登場するニュースキャスター・コメンテーターは、本当にオバマ大統領の演説をお聴きになったのでしょうかね。そんな時間もないほどに、テレビに出ずっぱりなのでしょう。コメントから逆にその人の品格と見識を知って(再確認して?)しまいます。その中で、「nikkeibp」で配信された「水野博泰の『話題潜行』from NY」は面白かったです。記者証を同僚に渡して、敢えて一市民の目線で列車で乗り込み、会場を往復しての取材は、臨場感あふれて印象的でした。終了後のゴミの山を見ての彼の感想にも共感しました、「アメリカ人は本当に変われるのか?」と。

6) 先月末のある新年の集まりで、自治体の保守系議員が挨拶でお話をされていました。「オバマ大統領の就任演説には本当に感動しました」と。乾杯の前の挨拶でしたが、「冗談じゃないぞ!あんたの立場はそんな事言っている場合じゃないだろう!」とつぶやいて隣の方と乾杯しました。日本の事は今日は言いたくない、そんな愚痴も言いたくなる保守本流日本国民の一人です。

これからが本番、沢山のネガティブ情報にさらされながらも、次々と政策決定をしている様子に、スタッフの実力も読み取れます。オバマ政権の中で、私としてはガイトナー財務長官に注目しています。