今回の地震、日が経つにつれて甚大な被害の様子が明らかになってきています。地震・津波、余震、そして福島原発連続事故による電力供給難です。繰り返し、被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。
昨日、羽田空港出発ロビーは、いつもの照明よりも暗くはなっていましたが、現場で働く職員の頑張りに支えられて、チェックインほかには何の支障もありませんでした。むしろ非常時の印象も明確で、秩序ある静けさとでも言うのでしょうか。都内JR切符の自動販売機も、3分の1は計画停電で使用できない旨の張り紙がありました。
羽田空港出発ロビーは薄暗く
原発事故は今後も目を離せませんね。私どもの財団としては、3年前に、ベラルーシ大使ご夫妻と被災地生まれの子供たちがこの事務所を訪問されたこともあり、原発事故と聞くと、あの時の子どもたちの屈託のない笑顔と澄みきった眼を想い出します。
2008年、秋山財団を訪問したベラルーシ大使ご夫妻と療養の子どもたち
訪問時に頂いたプレゼント!
秋山財団の社会貢献活動助成の第一号で採択された、「チェルノブイリへのかけはし:http://www.kakehashi.or.jp/」の皆さまの企画で、この訪問が実現しました。子供たちは財団の建物中を走り回っていましたし、被災した女性のエカチェリーナ・コスチュケービッチさんが、その時付添いの医師として同行していました。
丁度、今、早朝テレビのワイドショーで、原発の専門家という方が、「すぐに1986年のチェルノブイリ事故と今回の事故を一緒にする人たちがいるが、全く違います!」と、あたかも心配する市民の無知を叱責するような言い方でしゃべっています。
でも、そうではありませんね。理屈とか理論ではなくて、直接会って知った人々の顔と現実が最も説得力があるのであり、そこから連想する「不安」を払拭できない専門家の理屈こそ、「ニセモノ」と言うものでしょう。歴史的事実、或いは目の前に起きている現実に直面して、社会にしっかりした「安心」を提供できない「専門的知識」とは、一体どんな意味を持つのでしょうか。今こそ、「専門家」としてのこれまでの活動が問われているのです。
対照的に、昨日アメリカの科学者が、「今回の事故は、スリーマイル事故とチェルノブイリ事故との間くらいの危険度」と語っていました。さらにこの欄の末尾に、3月11日付ニューヨークタイムスのこの事故に対する論評を添付致します。国内の「専門家」が信頼できないのは情けないことですが、命には代えられませんので。
この数日間各テレビ局に出演している原子力発電関係の「専門家」と称される方々、特に東京大学教授たちの、ごく普通の市民に対しての冷たい眼差し・立ち位置、NHKを筆頭とするメディア関係者の突っ込みの甘さは、一種の日本の「異常性」を象徴するような現実だと思います。「想定外」、「念には念を入れて」等、ここに至ってこれらの言葉に憤りを感じるのは私だけではないのではありませんか。
昨日、JR東京駅構内を歩いていて、黙々と各ホームに向かう大勢の人々の後ろ姿を見ていて、何かある種の「感動」を覚えました。普段は、単なる群れとしての存在にしか映らなく、それどころか「従順な羊ではなく、自分の頭でしっかり考えろよ!」と攻撃的になる自分がいるのですが、昨日は明らかに違いました。日本社会は、「現場の力」、「労働力の質の高さ」で今日まで来たことを確認しました、指導的(?)立場の人材・アカデミックセクターがいかに貧弱でもですね。
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2011年3月11日:ニューヨークタイムス
「日本における放射能放出は数カ月続く可能性あり」と専門家が見解を示す
デヴィッド・サンガー、マシュー・L・ウォルド
http://www.nytimes.com/2011/03/14/world/asia/japan-fukushima-nuclear-reactor.html?_r=1&emc=na&pagewanted=print
日本の政府関係筋は、2つの発電所での炉心溶融は「部分的」であり、発電所外
での放射能の測定値は、日本の安全基準値の2倍とはいえ比較的低いと思われる
と言っているが、米国国防総省は13日にプラントから100キロメートル離れた地
点を飛行したヘリコプターに少量の放射性の微粒子が付着していたと発表した。
セシウム137とヨウ素121が含まれていると思われ、これは環境汚染の広がりを示
している。
1号機の設計に詳しい複数の専門家によれば、東京電力側にはいまや、冷却手段
として放射性物質を含んだ水蒸気を定期的に放出する以外に選択肢はほとんどな
く、この措置は核分裂が止まった後も1年以上続けられることになる可能性があ
るという。ということは、数十万人の避難住民は長期間家に戻れないことになり、
風向きが変われば、放射性物質が海方向ではなく日本の都市に向かって運ばれる
可能性がある。
通常の原子炉冷却機能を回復するには、電力が必要であり――地震と津波で電力
供給は停止中――発電所の技術者たちは、すでに放射能汚染が著しい場所で作業
をする必要があるだろう。
米国政府は、不安を抑えるために、「ハワイやアラスカ、米国領および米国西海
岸では、放射能が人体に悪影響を与えるレベルには達しないと予想される」との
結論を出しているが、日本に到着した専門家はこの3日間に起こったことを把握
し始めており、その一人は「最良のシナリオをたどったとしても、これが近いう
ちに終わることはない」と述べた。
核分裂反応が止まって原子炉の運転が停止されても、燃料は運転時の約6パーセ
ントの熱を出している。通常は、電気ポンプによって熱水を抜き、それを冷却す
るのだが、今回の場合、電力供給が止まった後、このシステムが使えなかったた
め、海水を注入して燃料冷却を試みた。だが、これによって、炉内の圧力が上昇
して、大気中に蒸気を放出し、さらに水を注入するという手法をとらざるを得な
くなっている。
燃料が無傷であれば、放出する蒸気に含まれる放射性物質はわずかであるが、燃
料が損傷すれば放出される蒸気の汚染度は高まる。
もう一つの懸念材料は、日本の原子炉の中にはMOX燃料を使っているものがあり、
MOX燃料には再処理したプルトニウムが含まれていることだ。今回の原子炉がこ
のタイプであれば、放出する蒸気はより有害なものになる可能性がある。
問題の原因は、津波の後の一連の失敗にある。津波は福島発電所の周囲にあった
護岸堤防を軽々と越え、ディーゼル発電機が浸水した。発電機は低いところに置
かれていた--これは明らかに、護岸によって守られるだろうという誤った自信
によるものだ。
大きな爆発は、炉心が冷却されない場合に原子炉格納器内で起きる可能性のある
ことを示す警告である。IAEAによれば、「炉心の損傷を抑える手段として」東京
電力は海水にホウ素(核反応を止める作用がある)を混ぜて注入することを計画
し、12日午後10時20分にそれを開始した。
これは捨て身の行動である。海水を注入すれば発電不能になるので、廃炉を決心
したということなのだ。だがこの海水注入も簡単ではない。格納器内の圧力がひ
じょうに高くなっているために海水注入が困難になっている。
問題をさらに大きくしているのは、原子炉内の計器が地震または津波で損傷して
いるようで、炉心にどのくらいの水があるかを正確に知ることができなくなって
いることだ。
また、注水の作業にあたっている人々は放射能にさらされていると思われる。放
射能汚染の治療を受けた作業員も複数いるという。彼らの被爆の程度がどの程度
深刻なものかは不明である。
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