‘71 北アメリカへの一人旅 (3)

Posted by 秋山孝二
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 一人旅をされた方は良くお分かりかと思いますが、旅の道中での人との出会いは、良くも悪くも印象に残るものです。一人気持が沈んでいる時には予期せぬ会話で大いに励まされ、或いはとんでもない状況の中で恐怖を感じる場合もあったりと。今年の冬季オリンピックが開催されたカナダ・バンクーバーという名を耳にすると、私は忘れられない旅の思い出があります。良いのか悪いのか、「不思議」という表現が一番ぴったりですね。勿体ぶるわけではありませんが、それを語る前に二つほどのストーリーを紹介しておかなければなりません。

 その1) この旅行、宿泊はYMCAが多く、大きな都市の施設では男性用フロアーと女性用フロアーがはっきり分かれていました。サンフランシスコのYMCAでは女性用フロアーとは知らずに(本当に知らずにです)歩いていて、ガードマンの大きな男に退去させられました。東海岸フィラデルフィアのYMCAだったと思います。路線パスで到着してチェックイン、その後部屋の外にある共同シャワー室(となりとの仕切りも何もなし)から帰って少しすると、部屋の電話が鳴りました。男の優しそうな声で「How are you?」に始まり、私の名前を聞き出し、それ以来「Koji」のはずなのになぜか「Kijo」と発音してしばし会話の後、私の部屋にやって来ました。アラブ系の若い大柄な男で、今では何を話したかは覚えてはいませんが、何回も「Kijo」を繰り返し部屋を出ていったのです。ここは、ただそれだけです。

 その2) 2週間後位でしょうか、ボストンの有名な公園、「ボストンコモン:http://www.cityofboston.gov/FreedomTrail/bostoncommon.asp」の池のほとりで、秋の昼に一人でベンチに座っていると、「・・・・boy?」とか何とか言って横の方から近づいてきた中年の黒人男性がいました。私は突然ではあり、咄嗟に「I am a boy!」と訳のわからない返事をした所、私の隣に座り、にじり寄ってくるではありませんか。私はその場を離れましたが、その瞬間は今でも忘れられません。周辺にはかなりの人がいた様な気がします。

 その3) そして、いよいよバンクーバーです。旅も2ヶ月半を過ぎて北アメリカ大陸を東から西へ、カナダを大陸横断バスで移動しながら、西海岸のバンクーバーまで到着。大陸を往復した高揚感と、カナダの雄大さに感動していた自分がいます。市内の有名な公園、「スタンレーパーク:http://vancouver.ca/PARKS/parks/Stanley/」で、晴天の日中に一人何となくベンチに座っていると、30歳前後の白人男性がニコニコしながら近寄ってきて、自然な話で楽しく会話をしていました。すると「もし良かったら、自分の家に来ないか?」と言われ、過去の経験もあるので、「もしや?」と思いはしましたが、多少の好奇心もあり車に乗って橋を渡り、高台の一軒家に一緒に行ったのです。家のリビングルームからは海も見えて、しばし日本の話とか、久しぶりに会話らしい会話で過ごしていると、しだいに彼(?)がソファーの私の横に近寄ってきて、何やら耳元で語りかけてくるではありませんか。これも経験かと、暫くリスニングのテストのようによく聞こえる英語を聴いていましたが、やはり自分の人生を考えて(?)、「I have to leave now !」で立ち上がりました。彼は変わらぬ優しい笑顔で分かったという感じで、私と最初に会った公園の場所まで送り届けてくれましたよ。私は立ち上がる時、ピストルか何かでも出てくるか、或いは多少の格闘も覚悟はしましたが、そんなことも無く公園に戻り、「不思議な体験」としてバンクーバーの名前とともに、今でも遠い記憶に残っています。

 その後、バンクーバーには数度行く機会があり、今ではそれ以降の新しい思い出に上書きされている部分もあり、時の流れを感じています。たわいの無い話、ここまでお読みいただいた方には、心から感謝致します。