キリンとサントリーの「破談」に思う

Posted by 秋山孝二
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 世界最大級の酒類・飲食会社を目指し(?)経営統合交渉を行っていたキリンホールディングスhttp://www.kirinholdings.co.jp/とサントリーホールディングスhttp://www.suntory.co.jp/でしたが、8日「打ち切り」を表明しました。メディア的には「破談」と言うらしいですね、新聞報道によると「両社の認識が一致しなかった」との理由だそうです。また、創業家と統合比率も大きな不一致材料だったと複数の報道もされています。

 この種の報道の時に、よく結婚前の「お見合い」に例える方が多いのですが、私は大変不適切だと思います。「お見合い」を一度も経験していない私ではありますが、昨今の「結婚」は大変多様ですし、大体伝統的なものが男女対等の関係とも思われません。「嫁をもらう」とか、仲人とか、およそ企業のM&Aとは無縁の構図だと私は以前から感じていましたが。

 直近5年間を見ても、ライブドアとニッポン放送(05.4)、王子製紙と北越製紙(06.8)、楽天とTBS(09.3)、日本通運と日本郵政グループ(09.9)等、経営統合交渉が打ち切りになった事例が目立ちますが、私にとっては「何か軸が違っている」、或いは「そもそも経営統合の目的でトップ同士の意思確認が出来ていたのかどうか」、トップ同士の信頼感に関して疑問を抱かざるを得ません。

 今回の場合、東証1部上場会社のキリンと、創業家が株式の9割を保有する未上場会社のサントリーとでは、外部の目からも、当初から「経営」と「所有」に対しての認識に大きな違いがありましたね。むしろ、よくこの状態でM&Aのテーブルに着いたな、と思っていました。そんな意味からは善悪の問題ではないのですが、今回の「打ち切り」は前向きな決断かもしれません。

 というのも、私は、1998年に医薬品卸業界で(株)スズケンhttp://www.suzuken.co.jp/と(株)秋山愛生舘の大型M&Aの一方の経営者として事に当たり、当時業界再編成の先駆的事例となった経験があるからです。ともに東証上場企業であり、トップ同士の信頼も最後まで崩れることなく交渉は進みました。「統合比率」でもめるなど、今振り返っても少しの可能性も無かったと思います。上場会社には株式市場で決まる「株価」がありますし、財務諸表も開示されていますので、予め大体の予測はつきます。極端に言えば「自ずから比率は決まってくる」に近い項目ではないでしょうか。腹の探り合い、創業家の主導権維持等での統合比率交渉だとすれば、事業統合の目的を見失った経営者の姿としか思えません。

 ただこんな経験もあります、私が合併後に関わった未上場会社との事業統合交渉では、毎回この「統合比率」、別の言い方をすると、未上場会社の社長の「俺の会社の株価をいくらに評価してくれるのか」という発言で、もめていました。自分の財産をどう評価するかが、創業家の経営者にとって、結局のところは最重要課題である場面を目の当たりにしました。

 私は1997年7月、(株)秋山愛生舘の5代目社長として、自分で事業統合への思いを「合併の趣旨」として冒頭に記載し、合併契約書を締結しました。当時相手方の(株)スズケン別所社長に事前にこの趣旨を提案した時、一言「これで結構です」とおっしゃいました。殊に「社会的使命」と「ビジョン」については、激変する社会環境への対応と果たすべき役割を共通理念としており、業務提携以来3年半に渡る経過で得た成果だったと自負しています。東証での記者会見の時、これに対する質問はどの記者からもありませんでしたが・・・・。

以下、その一部を抜粋して書き留めます。(下線は、ここに掲載の為に私が挿入したものです)

 

 

 <合併の趣旨>

両社が19942月に業務資本提携を締結して以来、約3年半が経過いたしました。この間、経営的視点からは、「21世紀に勝ち残る『新しい価値創造』が両社で可能かどうか」、「進化していく『力』が存在しうるか」、が最重要課題でした。一方各層での意見交換の場としての提携推進委員会の活動を通じて、商品供給、教育・研修、情報システム、新事業の開発と協同推進等の分野で相互理解を深め、幾つかの実績をあげて参りました。

 

この間の提携を冷静に総括し、

1)新しい価値創造の基盤、すなわち共有すべき理念(使命・ビジョン・価値・責任)

2)新しい価値創造のエネルギー、すなわち異質であるもの  

の存在に確信を得ました。異質なるものの確認は、この提携のマイナス要素ではなく、激しく変化する環境の中で、生き残るエネルギーとしてむしろ評価すべきものです。異なった地域で育ってきた人材、企業の成長過程、風土等は、多様性を包含出来得る可能性と評価し、新しい企業文化の創造に向けた限りない潜在的エネルギーとして、寄与できるものと確信しています。

 この様な背景の中で、異質なるものを包含した両社が、一歩進んで『新しい会社』を目指して合併する事により、激変する経営環境を乗り越える広域卸業としての確固たる経営基盤を築くことが出来るとともに、国内市場のみならずアジア等海外市場にも雄飛していくことを可能ならしめるものです。

 

企業理念として次の様な点において、基本的に同一の認識を共有しています。

社会的使命: 両社は、心から生命をいとおしみ、社会の幸福と繁栄を革新的に推進する「総合健康創造・支援企業」です。

ビジョン: 両社は、国際的視野を持って、常に力強く変革を遂げ、顧客・両社で働く全ての人々・ビジネスパートナー・地域社会・株主に対する責任を果たし続ける良き企業市民を目指し、すべての人々が信頼し期待するリーディングカンパニーになります。

 このような考え方のもと、両社は対等な精神で両社の経営資源を統合し、もって両社の社会的使命を確実に実現して参ることで合併に至ったものであります。

 

 この経験はもう10年以上前ですが、今も私はM&Aの話が出てくる度に、この「合併の趣旨」を越えるものは無いと考えています。共有する基盤は必須要件ですが、かと言って全く同じものであれば、規模が大きくなるだけで新しい価値創造はありません。「異質なもの」が交じり合う(ぶつかり合う)ことによって新しい価値創造のエネルギーとなり、全てにおいて一致している必要はないでしょう。。更に、「認識の共有」と「統合比率」は基本的に全く別問題、「株主比率」と「経営の主導権」も、別です。

 企業の生き残りをかけた選択は、まさに「理念」の勝負だと、私はささやかな自分の経験から思っています。