NHK教育テレビのETV特集「地域医療と霞が関の半世紀(http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2012/1007.html)」は、大震災被害の病院再建から、戦後の医療政策をさかのぼる、大変優れた番組でした。「医療」は、これまでの私の人生の中でも、重要なテーマであり、これからも寄り添い続けます(http://blog.akiyama-foundation.org/weblog/?s=%E5%8C%BB%E7%99%82)。
医薬品卸業経営者として、医薬品流通の立場で度々お会いした日本医師会の坪井栄孝元会長、秋山財団の最初の講演会の演者でお招きした日野原重明先生、厚生省(現・厚生労働省)の幸田正孝さんほか、懐かしいお顔も登場していました。坪井先生は、お会いした時はいつでも、当時まだ若かった私の話をしっかりお聞き下さり、飾り気なく、誠実に向き合って頂きました。
東日本大震災によって被災した医療機関は、実は震災前から、医師不足と赤字経営に苦しむ医療過疎地域でした。岩手県陸前高田市の県立高田病院では、今は、全国から駆けつけた応援の医師たちの助けを借りながら、何とか仮設診療所での診察を続けています。
福島県では、福島第一原発の事故後、放射能による健康被害を懸念し、医師の離職が相次いでいるとのこと。原発事故が、もともと深刻だった医師不足にさらなる拍車をかけている現実です、郡山市のあの坪井先生の病院ですら、その問題に直面しているようです。
なぜ、地域医療は疲弊してしまったのか、厚生省キャリア官僚OBと日本医師会の元幹部の方々への長時間のインタビューは、その経過を明らかにしていました。医療費削減と保険料負担の調整に追われる一方、どんな医師を育て、全国に医師をどう配置すべきかという担い手の議論がおきざりに、或いは見誤ってきた実態ですね、これは当時もずっと指摘されてきたポイントでした。
ビバリッジ報告、医療機関整備計画、国民皆保険制度導入、プロフェッショナル・フリーダム、自由開業医制、医療金融公庫の成り立ち、一県一医大構想、家庭医制度の試み、医療法改定、地域医療計画、必要病床数、かけこみ増床、医療費亡国論、新臨床研修制度、等、これまでの歴史を振り返るキーワードも明確で、戦後の医療政策を1時間半の番組の中で、コンパクトにまとめられていました。
この番組の特に優れているところは、震災後に病院を取り戻そうと模索を続ける岩手県立高田病院の半世紀の歩みに、戦後の医療を巡る厚生省と医師会との攻防の歴史をたどりながら、超高齢社会に突入した日本で、これからも持続可能な医療の姿への問題提起だと思います。
予測に基づく政策立案、そこに絡む各セクターの思惑、思ったような成果を挙げられない、或いは意図しない結果となってします等、共通して大きく欠けているのは、一人一人のモチベーションとか心理と言った社会科学・人文科学的な考察のような気がします。今のエネルギーにおける原子力発電の議論にも、この論点が欠けていて、ただ「エネルギー」の問題として技術的な視点からばかりのやりとりで、それ以外は「感情的」と排除されているような気がします。成功する政策の秘訣は、実は「人の心理をつかむ」ことなのだと思います、ね。