高校時代の同期で、3年生で同じクラスの安井耕一http://spysee.jp/%E5%AE%89%E4%BA%95%E8%80%95%E4%B8%80 くんは、私の親しくしていた友人です。毎年定期的に夏に札幌でもリサイタルを開催していました。先日は2年ぶりにルーテル・ホールで行われて、沢山のファンで盛況でした。
納得のいかない高校生活を送った私でも、彼との想い出は貴重な素晴らしいものばかりです。
その一つは、学校祭でシューベルトの「ます」http://www.youtube.com/watch?v=Vz5-2_Mcuqc を彼がピアノで私がチェロ、コントラバスはなしの弦楽四重奏でやりました。恥ずかしながら私は、小学校から高校2年までチェロを習っていました。本番が近いある日、安井くんの提案で有名演奏者たちのレコードでこの曲を学校の放送室で一度聴いて見ようということになり、それぞれ譜面を見ながらレコードを数回繰り返し聴いていたその時、「あれっ、ピアノが間違った音を弾いている!」と突然安井くんが指摘するのです。忘れもしない第4楽章のピアノパートの物凄く難しい部分ですよ。譜面を見るとその辺りが異常に細かな音符が連なる山脈の様に山・谷の繰り返し、その中の十六分(三十二分?)音符の一つを弾き違えていると言うのです。その後数回、念のために聴いてみると、確かに違っているのですね。私は正直にいって、最初は違っていることには気がつきませんでした。私にとってその時の彼の聴音の正確さは、まさにたまげる程の驚きでした。
もう一つは、3年の秋以降、安井くんは月にかなりの頻度で東京にレッスンに通っていました。秋のクラス対抗の球技大会でバレーボールに出場予定の彼は、手に軍手をはめて練習に打ち込んでいました。「突き指したりしたら大変だから、無理しなくていいよ」と私が言ったら、彼は笑顔で「いや、ピアノを弾く指にもきっと良いよ」とさらりと応えたのです。私はその時の彼の笑顔が忘れられません。音楽を志す方の私のイメージというと、眉間にしわを寄せながら神経質そうに音に聴き入る風ですが、彼の人柄は本当に眼差しの優しい、しかしながら音楽への厳しさを兼ね備えた惚れぼれするような人物でした。
詳しくは知りませんが、東京芸術大学卒業後はドイツでの生活も永く、数多くのコンサートで高い評価を得て、この所は日本でも指導に当たっています。全く別の人生を歩んだ私にとっては、音楽家の道をしっかり歩み続ける彼をいつも誇りに思っていますし、これからも沢山の若手ピアニストを育てられると信じています。益々のご活躍を期待しています。