先日来のTPS東欧公演ツアーに同行していて、急に思い出したことがあります。
もう15年以上も前になるでしょうか、私は以前の仕事でヨーロッパ出張の折りに、パリ・モンマルトル下の「Moulin Rouge:ムーランルージュhttp://www.moulin-rouge-japon.com/about.html」に行く機会があり、座った場所も前方の臨場感あふれる席でした。当時のテーマは、「ムーランルージュ伝説の『F』http://www.moulin-rouge-japon.com/topics/history.html」の中の「FORMIDABLE」。
以前から評判は聞いていましたが、伝統ある絢爛豪華な舞台が続き、暫くしてパントマイムなのかコメディアン風の山高帽姿のエランが登場しました。とにかく何もしゃべらずに音楽をバックにジェスチャーがまるでリアルな場面を描き出していて大いに沸いていた場内です。
すると彼が何やら観客席を眺め始めて、どうやら客席の中から舞台に上げて一緒に演技をする人を探す様子。一瞬本能的に目をそらして再度彼を見た瞬間に、何とビシッと視線が出会ってしまったのです。ニヤッと笑った彼が私の席に近づいてきて舞台に上がれと腕を引っ張るではありませんか。日本男子(?)がパリのここでしり込みするのもみっともないと思って数段の階段を昇り、促されるままに舞台中央へ進みました。振り返って客席を見ると満席の場内(850席)、飲み物・食べ物でいっぱいのテーブルの周りの人々が笑顔で私を見ていました。
エランに言われるままに「素直(?)」に演技をすると、その度に場内は笑いと拍手喝采で盛り上がるではありませんか。実は彼はその都度、こと細かに耳元で簡単にアドバイスをささやいてくれていたのですよ、舞台表面にある沢山の目印を示しながらです。5分以上も舞台上に居たでしょうか、不思議と段々快感になってきました。最後は彼のお礼の言葉と客席の拍手で舞台を降りましたが、かくして私はライザ・ミネリやエルトン・ジョンのように「ムーランルージュの舞台に立った輝かしいセレブ」の一員となったのです。
その後、この伝統あるレビューのディレクターからは何のオファーもなく、私は日本に戻り、変わらぬ経営者人生を続けました。今、以前よりもかなり芝居を観ている日々ですが、舞台の沢山の印を見ると不思議にその時の興奮・感動が昨日のことの様に思い出されるのです。