映画「Inside Job」ほか

Posted by 秋山孝二
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 還暦を迎えて一番嬉しいのは、いつでも映画を1000円で観られることと以前にも書きましたが、それを実感する昨今です。

 まずは、ホラー映画より恐ろしい(?)、まさにそんな映画「インサイド・ジョブhttp://www.insidejob.jp/ 」です。3年前、投資銀行のリーマン・ブラザーズの倒産に始まった損失総額20兆ドル(!!)の世界的な金融破綻は、どのようにして起きたのか、それを徹底的に追ったドキュメンタリー映画で、「世界不況の知られざる真実」のサブタイトルもついています。今、金融機関で働く全ての方々には観て貰いたいですね。

 今年の第83回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞(http://www.cinematoday.jp/page/A0002814)を受賞した作品で、今となっては、「金融破綻」と「東電福島原発事故」が同じような構造であり、間違いなく「人災」であることを確信します。「規制緩和」を通して、こんな構図を押し進めたのが80年代からの米国政権、レーガン、クリントン、ブッシュ、そしてオバマも、政党は違っても同じ構図で成り立っています。3大統領の下で金融政策を決めてきたグリーンスパンに始り、緩和政策を支えた政・財・官・学界の結託によって引き起こされた破綻だったと指摘したのが、このドキュメンタリーの重要なポイントです。

 「Inside Job:インサイド・ジョブ」の意味は、内部の良く事情を知った者が手引した犯行という意味。つまり、この金融危機は金融に関わる内部の者(インサイド)が犯した犯罪である、という認識であり、その証拠に誰も逮捕も起訴もされていません。映画の取材を拒否した当事者たちも多くいましたが、画面いっぱいに出て来る方々は皆、少し前までしかるべき責任ある立場に居た方、或いは現在も現役でいる方々ばかりです、何とも鬱陶しい息苦しさでした。

 次は、「ショージとタカオ:http://shojitakao.com/」、布川事件(http://www.fureai.or.jp/~takuo/fukawajiken/)の二人を追いかけたドキュメンタリー映画です。井手洋子さんが監督・撮影、二人の29年間の刑務所生活の後、仮釈放から14年間二人を追いかけて撮影し、2008年に東京高裁が二人の裁判やり直しを支持したのを機に、2年間で映画に仕上げたのが作品の経緯です。

 とにかく信じられないくらい前向きな二人で、何ともコミカルですから不思議です。とは言っても、こんな感想を持てるのも、現在、結末が分かっている私の気楽さゆえのことかもしれません。折々の場面で登場する方々の語りが、また実に味わいが深いです。判決が出る前の率直な「怖さ」の吐露とかです、勿論無実は信じているのですが、新しい「判決」を背負って、家族とともに生きざるを得ない状態にとか、重たいですね。この間ずっと関わった弁護士の方による、淡々と「冤罪」裁判の難しさの振り返りも強く印象に残ります。この布川事件、つい5月24日に、水戸地裁土浦支部で「再審無罪判決」が言い渡されました。足利事件(http://blog.akiyama-foundation.org/weblog/?p=7775)とともに、日本社会における「冤罪」の問題提起です。

 最後は、「マイ・バック・ページhttp://mbp-movie.com/」、時代はまさに、私の学生時代とぴったりダブります。原作者・川本三郎さんも著名ですが、1976年生まれの監督・山下敦弘さんも若手のホープです。若いにもかかわらず、間合いを十分に取った会話のやり取り、ラストに象徴的に撮り続ける映像からのメッセージ等、素晴らしいです。この時代、全く体験していない方々にとっても、時代を生きた人々からメッセージを感じとれるのか、と少し嬉しくなりました。

 映画の前半、東京・日比谷野外音楽堂での集会シーン、あの集会の場に、当時大学生だった私は居たのです。山本義隆氏がカーキ色のジャンバー・ヘルメット姿で壇上に突然登場し演説を始めた時の様子を、上空のヘリコプターの音とともに鮮明に覚えています。時代の空気として「ホンモノ」、「ニセモノ」へのこだわり、観念的思考、何とも不安な人生の一時期ほか、今思い出しても胸が痛みます。ベトナム戦争反対、三里塚空港建設阻止等、内外ともに騒然とした時代ですが、学生の感性は今の学生よりはるかに鋭敏で、「社会問題」が身近で真正面から向き合っていたと思います。

 「人の優しさ」は、自らの装いを恥じる気持と相まって、一層心に染み入ります。私にとっても、三里塚空港建設現場での集会後、京成電車で成田駅から同方向ゆえに一緒に帰った学生の優しさは忘れられず、京成八幡駅近くの小さなお店の中華丼、朝から何も口にしてなかったので、酢をいっぱいかけて食べた時は、思わず疲れとともに涙が出て来ました。人を欺く行為に憤りを感じつつも、自分自身は他人を平気で裏切る危うさ、そんな揺れ動く10代最後の時期だったような気がします。

 この数日間、メディアでは「内閣不信任案」を巡って大騒ぎが続きます。私の所に届くメールにも、「いい加減にしてくれ!」みたいな内容が殆どです。誰とかどの政党とかではなく、戦後政治を担ってきた人材の貧困さ、「政治」総体への憤りでしょうかね。原発事故による放射能は出続けており、復興どころか復旧さえもままならない日本、私は深海で次の時代に向けた営みを粛々と続ける、そんな心境です、勿論、今を諦めた訳ではありませんが!

<6月4日追記> 昨日この欄で、「この布川事件、つい5月24日に、水戸地裁土浦支部で『再審無罪判決』が言い渡されました」と書きましたが、今朝の新聞記事によると、「水戸地検は3日、控訴を断念する方針を固め、東京高検に伝えた」とあります。予想は出来ましたが、どうして6日の最終決定前にこのような形でメディアに届くのでしょうかね?