ミニシアター系映画館の上映スタイルは、一つの作品を一日の中で繰り返し上映ではないので、同じ日に同じ映画館で違う作品を観ることができます。札幌・狸小路6丁目のシアター・キノ(http://theaterkino.net/)で、二本続けての韓国映画は、いずれも「家族の関係性」をテーマとしていました。
一つは、「息もできない:http://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/」で、俳優として活躍してきたヤン・イクチュン初の長編監督作品です。「自分は家族との間に問題を抱えてきた。このもどかしさを抱いたままで、この先は生きていけないと思った。すべてを吐き出したかった」と、チラシにあります。そんな切実な思いから脚本を書き始め、自分で資金を集め、製作にこぎつけたそうです。自身の感情のありったけを注ぎ込んだ主人公サンフンを演じるのはもちろん彼で、まさにヤン・イクチュンの魂そのものですね。物語はフィクションでも、映画の中の感情に1%の嘘もない、と彼は更に語っています。
観客の胸を激しく揺さぶり、彼の感情を受け止めるのも大変です、観客こそ、まさに「息もできない」でした。見終わった後の疲労感もかなりでしたね。最初から最後までトップギアといった感じで、「間」とか「溜め」がもう少しあると、作品としてはもっと感動出来たような気がしますが。
もう一方のキム・テギュン監督、「クロッシング:http://www.crossing-movie.jp/」は完成度の高い映画でした。「生きるために命を賭けて国境を越える人々:国家とは何か、人間とは何か、彼らの存在が私たちの心を激しく揺さぶる」、「果たされなかった父と息子の約束」、「生きるために別れるしかなかった」・・・・、胸に刺さるフレーズの数々、涙が止まりませんでしたね。11歳の息子ジュニが、「お母さんを守る約束を果たせなかった、ごめんなさい」と、遠く離れた父に詫びる場面は、特に胸が痛みました。折しもW杯サッカーの真っ最中、そしてどこにでも同じように降る「雨」が場面場面で現れて、思い出の糸となって繋がります。背景の映像も素晴らしく、韓国・中国・モンゴルでの撮影は、移動距離で8000キロにもなったとか。
一昨年、私は板門店に行き、昨年4月にこの欄に書き留めました(http://blog.akiyama-foundation.org/weblog/?p=876)。しかしながら、その時の北と南の対峙する場は、多くの悲劇を覆い隠すかのように異様な静けさでした。日本本土では1945年が最後の終戦でしたが、隣国ではその後更に新たな戦争が勃発し、多くの家族の悲惨な状況が今も続いている現実を実感しました。余りにも理不尽な、そしてその中でも脈々と続く親子の愛情、地理的にはすぐ近くの、同じ時代を生きてきた別の家族像を目の当たりにしました。