6月末は3月期決算上場会社の株主総会が相次いで開催され、その様子は毎年この時期、テレビ・新聞紙面を賑わして、まるで「6月の風物詩?」ですね、最近ではインターネットでのライブも臨場感いっぱいです。
私は、未上場会社、札幌証券取引所上場会社、東京証券取引所上場会社の代表取締役として、この株主総会に企業側としてヒナ段に並び、議長も7年務めました。この経験からすると、株主総会に関するマスメディアの報道が、いかにも違和感があり、何かの機会にその辺を発信したいなと思っていました。今年3月、東電福島原発の大惨事が起こり、各地電力会社の総会、とりわけ東京電力の株主総会が今年は注目されていましたし、少しコメントしたいと思います。
電力会社の場合は企業とは言え、「地域独占企業」という極めて特殊な立場ですから、いわゆる厳しい企業間競争の中にいる「一般民間企業」とはかなり様子を異にすることは考慮しなければなりませんね、顧客は選択の余地なく電気に依存せざるを得ないのです、私はそれゆえに電力会社の経営者には、特段の「顧客に対するサービス精神」と「社会への責任」があるのだと思いますが。
まず、一般の企業側からすると、そもそも「株主総会」というのは、建前としては経営の最高決定機関ではありますが、その場で議論を沸騰させて決める場とは考えていないでしょう。日々リスクを背負って、まさに24時間勤務で企業活動に目配りしている代表取締役から見ると、1年に一回、総会に出かけてきて勝手なことを言って大騒ぎする(失礼!)少数株主は、必ずしも歓迎する方々でないと思うのは、ある意味で当然のことです。こんなこともありました、ある年、ひどい質問が出された総会があり、終了後の控室で思わず副社長が、「そんなに文句が有るのなら、さっさと株を売ればいいんだ!何も株主総会に出かけて来て、下らない質問もないだろう、株主には売る自由があるはずだ!」と怒っていました。
大株主とは日常的に情況報告・アドバイス等で意見交換しているでしょうし、日頃から信頼関係を築くために最大・細心の配慮をしているはずです。また、企業の総務部は、訪れる株主への情報開示・説明等をいつも整えています、いわば「ご意見はいつでもお聴きする体制を取っている」状態ですね。 以上のような現状からすると、株主総会では、経営陣として形式上どうしても予定通りに成立させなければならないとすると、出来るだけ速やかに終了させようと努力するのは、ある意味で当たり前の姿勢かと。事前に十分な準備をして限りなく速やかに終了し、最近では同時に、「株主の声に耳を傾けています、大切にしています」というパフォーマンスも重要だとは思う、そんなマインドでしょうか。ですから委任状により開会前から成立している現実、社章を外し、年休を取らせ、前方数列を陣取る、或いは会場に散らばらせた社員株主に大きな拍手をさせる(以前は「異議なし、議事進行!」の威圧するような大きな声:まるでヤ○ザです)パフォーマンスも理解できはしませんか?
今思うと、未上場会社の株主総会の方が、真面目で真剣な経営者のやりたいようにできる環境があります。(株)秋山愛生舘の場合も、未上場の時はホテルの小じんまりした一室で総会、その後は隣の部屋で昼食懇談会で日頃の感謝と意見交換、まさに理想的な場でした、特に上場した後の株主総会を経験すると、一層その感を強くしましたね。「株主の声を聴く」ことの原点がそこにあったからだと思います、会社をこよなく愛している方々が株主だったとも言えましょうか。上場すると「株主」の価値観が違いますね、経営者として株主と対峙して一番感じる違いでした。怒号とヤジが飛び交う株主総会、それ自体が資本主義のグロテスクな姿、未熟な企業のような気がします。
一方メディアは株主総会をどう伝えてきたのか、これがまた変わらずひどい姿勢です。今から20年くらい前、地元新聞の記者はあらかじめ電話をよこして、「30分を越えたら連絡して下さい(?)」です、明らかに「長引いた総会は問題あり」の世界でした。几帳面に「35分で終了しました」と連絡すると、物足りなそうに「ああそうですか」の素気ない返事で。ところが、これが2000年くらいを境に大きく変わってきました、短く終了した会社は「株主の声を聞いていない」、と叩き始めたのです。企業側のアドバイスする弁護士陣も、期を同じくして事前指導に変化が出て来ました、「紋切り型ではなく、誠実に説明する姿勢が大切です」と。ある時は私は、「株主席から何かモノが投げつけられたら議長としてどうしたらいいでしょうか?」と冗談めいて聞くと、「当たって眉間から血を流すくらいがいいです」と真面目に回答がかえってきて驚いたこともあったり。
相変わらずなのは、株主総会の価値をただひたすら「所要時間」でのみ評価している視点です、メディアの貧困・見識の無さですね。そんな報道ばかりだからこそ、企業側も強引に一気に議事進行せず、「適当な時間を費やして」アリバイをつくり、あらかじめ予定した時間で「打ち切り動議」を企業関係株主が提案して、採決・拍手多数で終了へと、「予定通り」のシナリオです。
今回の電力会社株主総会後の新聞各紙、「脱原発株主ら無力感」、「建設的議論ない」等、私からすれば「何を今さら」ですね、メディアは株主総会を全く分かっていない、さもなくば明らかに「原発推進に加担している」姿です。株主総会はどんなにたくさんの出席者であっても「株主」の集まりでしかない、そこで電力会社の存在自体を議論することは不可能ですし、定款の目的事項を議論するのもかなり無理があります。勿論、それを承知でパフォーマンスの場と割り切ってのプレゼンスであればそれはそれで目標達成です。
株主総会でどうあれ、3・11以降の日本社会は、まさに「放射能とともに生きる世界」になったことに何の変わりもありませんし、社会的議論が必要です。今、私たちは真剣に自然エネルギーへのシフト、制御不可能な原子力から離脱(これも実際は長期間必要)を、迅速に、自分のフィールドから始めなければなりません。