今年、第83回アカデミー賞(http://www.wowow.co.jp/extra/academy/)で、映画「英国王のスピーチ:http://kingsspeech.gaga.ne.jp/」が、作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞など4冠に輝きました。同じくノミネートされていた「ソーシャル・ネットワーク:http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD16880/」は、脚本賞・編集賞・作曲賞の3つで、評論家筋では「圧勝」とのことです。
吃音症に苦しみ、満足にスピーチ出来ない英国のアルバート王子(コリン・ファース)が、やがて国王ジョージ六世(現在のエリザベス女王の父)として、第二次大戦の開戦に、国民に向け感動的なラジオ・スピーチをする、あまりにも先が見え見えのストーリーではあります。コリン・ファースの「自信なげ」な感じが次第に変わっていく様子が分かりやすく、ドラマチックに盛り上がっていました。
脚本の73歳、デヴィッド・サイドラーに負うところが大きいのでしょうね、本人自身も吃音症でこの作品への思い入れもあり、同時にジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム・カーターの演技が素晴らしかったです。この作品がこんなに魅力的なのは、アルバート王子、妻、オーストラリア人治療士ローグが創り出す対立、和解、信頼が、的確に表現されているからでしょう。
それと、映画前半は「治療する者と治療される者」「王室と平民」といった分かりやすい対立関係で、次第に、一歩踏み込んだ「人間と人間」に進化していく構図。「伝えるべきことがある!」とジョージ六世が叫び、ローグは国王の覚悟を確認しました。「あなたは勇敢な人だ」、「私に話して」、ローグの短い言葉に力を感じます。終盤、スピーチ直前の国王が語るローグへの感謝の言葉と、それを受けとめたローグの表情が印象的でした。
ラストは、演説後にバッキンガム宮殿バルコニーから国民に手を振るジョージ六世の後姿、それを見つめるローグの微妙な表情も良かったですね。スピーチは感動的でも、戦争がこれから始まる、まさに前途多難な時代です。先日のロイヤルウエディングで、お二人が手を振っていたあの場所ですよね。
大英帝国の国王と王室が、実はドイツ系であるということは背景として知っておく必要があります。第一次世界大戦ではドイツと戦い、しかもまたヒトラーの台頭によってドイツとの戦いが不可避のものとなってきたとき、国民感情への配慮を迫られました。この状況のさなかに国王に即位することを余儀なくされ、国民に向けてラジオ越しにスピーチをしなければならなかったジョージ六世の心中を察すると、さらに映画を深く味わえます。
ヨーロッパ映画の厚みは、各国の皇室がそれぞれ深い姻戚関係にあることに由来するのかもと思えます。この映画を観終わってから、インターネット検索で調べてみると、映画のシーンにロシア皇帝であったニコライ二世の肖像画が出てきたようですね、私は見逃しましたが。
映画とは直接関係はありませんが、英国王室メディアとして、「The Royal Channel:http://www.youtube.com/user/theroyalchannel?blend=4&ob=4」の広報サイト、つい先日は久しぶりの「ロイヤル・ウエディング」も盛り上がったようです。因みに日本の皇室広報は、「宮内庁HP:http://www.kunaicho.go.jp/」でしょうか、日本の映像・芸術センスはこんなものではありませんが、何かお役所仕事的(?)サイトで、雰囲気の違いを感じますね。
それでも2年前この欄(http://blog.akiyama-foundation.org/weblog/?p=470)に書きましたが、日本の宮内庁のライターは中央官庁ではピカイチとの評価も。また、皇室を警護する皇宮警察等、幅広い国民を意識したソフトな雰囲気を演出し、たとえば、数年前に札幌に天皇・皇后両陛下がお越しになった時は、地元警察も先導パトカーから情況をあらかじめ集まっている市民に解説する等、普通の警備とは大きく異なった雰囲気づくりをしていました。これも皇室の強い意向と伺ったことがあります。この度の震災で、先日避難所を訪問された時の両陛下のご様子を拝見し、「皇室」の強い意思と品格を感じました、特に直接語られた肉声によるお言葉の力を。
今回、この映画による王室当事者の内側に迫る内容に、英国という国の懐の深さを垣間見た気がします。