私は、医療経済研究機構http://www.ihep.jp/の個人会員になっています。なかなか時間がなく、講演会にも欠席が多いのですが、毎年、新春特別講座には出席しています。頭の整理に効果的で今年も面白かったです。
「医療へのアクセスと資源配分ー医療崩壊への処方箋を考えるー」との演題で、医師のきめ細かい分野別での養成、地域における医療の重要性と具体的方策等、示唆に富む提言の数々でした。
日本の医療というのは、これまでいろいろ言われてきていますが、相対的に世界の先進国と比べてみて、大変コストパフォーマンスの良い皆保険制度だと思っています。勿論、社会の高齢化の進行他、長い間の変化に適応した改革は日々必要であるのは間違いありませんので、設立当初のままの制度で良いという訳ではありません。ただ、基本的認識として、日本の良い所はきっちり守る姿勢とういのは、大切な事だと思うのです。昨今の議論を聴いていると、何もかにも悪いみたいな議論が多く、またまた危機感を持ってしまいますね。個別の不満・不安と制度の良し悪しの議論が、ぐちゃぐちゃになっている様な気がします。
夕張などでもそうですが、北海道の医療現場は、今危機的です。地方は病院がどんどん撤退して、広域連合としての基幹病院も残らず、結局は札幌圏の大病院までの搬送を前提とした仕組みへと移行しています。先日の講座でも、「医師不足が医療の崩壊の原因であると言われているけれど、本当にそうなのか」との問いかけが、パネラーの臨床医からありました。イタリア・ギリシアなどは人口千人当たりの医師数は日本の倍くらいいますが、医療の質が高いとは決して思えません。どうも医療の荒廃の原因を誤った認識から始めている気がします。もう一つしばしば語られる財源論です。「他の予算をもっと社会保障に回せ!」というものですよ。これも当日の報告の中でもありましたが、02年から08年だけを見ても、公共事業は大幅に減っていて、防衛・文教科学費も数字上は削減です。ただ社会保障費が18兆3000億円から21兆8000億円と、大幅に増加しているのが現状です。言いたい事は、これまでの政策では「偏在」という概念が欠落しているのだと思います。医療へのアクセスと資源配分のミスマッチというのでしょうか。今、まさに政治の出番なのですが・・・。
今後の医療政策として、幾つか印象に残った言葉を列挙致します。
*急性期病院の外来について、他の社会資源による代替を考えては――開業医が施設としての病院を支える、或いは勤務医が地域医療を支える、といった施設と担い手の流動化を図る事により、資源配分の適正化を図る
*在宅医療は4輪駆動――医師・看護師・薬剤師・歯科医師とのコラボレイト
*政策は理想ではなく、実現可能性が最も重要
*新しい法律、新しい政策、新しい制度導入には、世の中に理解されるような一体感づくりが必要。介護保険導入時の粘り強いシンポジウム・国民との対話の経過に比べて、「後期高齢者」問題で批判を浴びた一件の唐突さ。
*まずは「救急医療」を軸にあるべき地域医療体制を構築していく事が大切。
私は以前から主張しているのですが、医療問題を「医療費からの視点」だけから語るのは、地域住民にとっては大変迷惑な話です。偏在があるので、特に北海道のような過疎(札幌圏以外)と過密(札幌)が同居する都道府県では、「北海道」として出てくる数字ではどのまちの実態も示してはいません。費用としてだけ認識してしまうと、「削減」という発想しか出て来ません。社会に「必須の機能」とか、「まちづくりの要」という認識を持つと、もっと幅広い議論が出来ると思います。逆に言えば、「充実した医療体制のまち」で、沢山の人が安心を求めて移住してくるに十分な動機があるに違いありません。自治体の方々にはそう提案しています。