「世襲」論議に思う

Posted By 秋山孝二
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 相変わらず政治を中心に「世襲」論議が騒がしいですね。どうも良く理解できないメディア記事の原因は、メディアの扱いに強い先入観念があるのと同時に、当事者である親・子どもが明解にモノを語っていないことによるものだと思います。政治の舞台は国のリーダーを視野に入れた議論でなければならないにもかかわらず、一般論としての「世襲」を扱おうとする姿勢にも疑問があります。私も企業経営に関しては「世襲」の一人なので一連の論議には興味はありますが、強い違和感を持つものです。

6月14日(日)の北海道新聞生活欄「香山リカのひとつ言わせて」で、「世襲議員、パパに反発したら?」と題してコラムが掲載されていました。「親の仕事を受け継ぐ子ども側は、抵抗を感じないのだろうか」と、エディプス・コンプレックスの気概を訴えています。

政治の世界はさておき、私も受け継ぐ側がもっと積極的に自分の意思を発信すべきだと思うのです。親側にはいろいろな思いがあるのでしょうね。出来の悪い子供と分かっていれば、何とか苦労しないように自分の築いた財産を与えたいとか。或いは自分は仕事一筋で家族を顧みなかった人生のせめてもの罪滅ぼしみたいな気持で、得た地位・名誉等の財産を譲ろうとするとかですね。いずれにせよ、子供を持つ親は、子どもがいくつになってもどんなに離れて暮らしていても、心配の種は尽きないという構図は容易に理解出来ます。それとは正反対に、親子が様々な理由により反発し合っている方が、この種の問題においてはかえって分かりやすいのかもしれません。

問題は親の気持ちに対して、これからを間違いなく担う子ども側がどう受け止めてどう自分の人生を方向づけるのかを、しっかり語る事なのだと思います。私の場合、大学進学時は自らの意思で教師を志し、しかしながら希望の大学の入試は直前で中止となり、思ってもみなかった大学に入学。そして地元に就職するのが常識的だったにもかかわらず、隣の東京都で公立中学校の新卒教師としてスタートしました。しばらくして実家の札幌から、「札幌に来て会社経営に携わって貰えないか」との話があり、約1年間自分なりに模索して、結局小学校教員だった妻と子供一人(当時)ともども札幌に行く事になりました。妻にとっては必ずしも納得のいく転進ではなかったはずです。

幼いころから実家の仕事を継ぐ事は全く告げられていなかったので、私はその話があった時には戸惑いましたが、経営者の家庭として24時間365日会社の仕事に没頭する祖母・伯父・伯母・父の姿は焼き付いてました。会社に入ってからは、当時の経営トップ(身内)の理解もあり、私の希望に沿って現場を幅広く見て各部署の各年齢層の社員・取引先他と接しながら、2年間ほど時間を掛けての日々を送りました。

入社時は勿論「将来の社長」を約束されていた訳ではありませんが、800人規模の同族会社で働く人々の私を見る眼は、普通の社員とは違っていましたね。私自身はその視線を自分への期待と独りよがりに解釈してはいました。どこの部署に行っても暖かく迎えられたと今でも思っていますし、その時に新米の私に話してくれた沢山の会社に対する注文は、その後経営トップになった時にも大いに役に立ちました。準備の期間或いは見極めの時間が必要ですね、双方にです。そこで将来の「覚悟」が難しければ、世襲で引き受けるのを辞退する選択肢も用意すべきです。お互いの不幸を避ける意味でも。

もう一つ日本的ともいえるのでしょうか、「よそ者排除」の社会の雰囲気もこの世襲論議に影響していると思います。「経験がない」、「どこの馬の骨か分からない」みたいな排除の論理が強い世界ほど、世襲が多いですね。今のように変革が待ったなしで必要な時代には、まさにこの「よそ者」が担い手となって新しい価値観と問題意識で改革の実行を期待されているのだと確信しています。

政治やビジネスの世界には時代時代の課題があり、それに立ち向かう担い手もその解決の最適者でなければ上手くいきません。遺伝子を共有していることは間違いないですが、舞台としての時代が同じではないのですね。どんな世界でも、従ってあくまでも候補者の一人としての存在と位置づけるべきであって、それしかないとの思い込みは当該組織の弱体化を意味すると思います。土壇場で「問題解決」という最優先課題を見失う、覚悟もないまま自分自身を見失う、根拠もなく過信するこども側も不幸です。その辺りが歌舞伎等の芸術分野での世襲との大きな違いではないでしょうか。

ところで今年の秋山財団の贈呈式に先立つ特別講演会では、香山リカさんをお招き致します。9月10日(木)午後2時から札幌プリンスホテルパミール館の予定です。また近づきましたらご案内もします。

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